2026/4/10
特許権の存続期間の延長後の効力に関する判決例
令和8年(2026年)3月3日大阪地裁第21民事部判決
令和7年(ワ)第10786号, 同第10790号 特許権侵害差止請求事件
原告: ヴィアトリス製薬合同会社
原告補助参加人:スキャンボ
被告:沢井製薬
本件は、特許権の存続期間の延長後の効力について、過去に延長され存続期間も既に満了した先行延長登録に係る態様と同一の被告医薬品に対して、後行延長登録に係る態様と実質同一であるとして延長後の効力が及ぶかにつき判断された下級審の事件に関するものです。結論的には、及ばないと判示されていますが、妥当ではないかと思いました。
最高裁HP:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-95655.pdf
[1]本事件の概要
本件は、補助参加人から本件各特許権につき本件各専用実施権の設定を受けた原告が、被告製品は本件各発明1及び同2の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件各特許権の効力(ひいては本件各専用実施権の効力)は、被告による被告製品の実施に及ぶとして、被告に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、差止め廃棄などを求める事案です。
本件各特許権は、①特許4889219号(本件特許権1。発明の名称:腹部不快感の処置のためのプロスタグランジン誘導体)と②特許4332353号(本件特許権2。発明の名称:15-ケト-プロスタグランジン類を含む薬物誘発性便秘処置用組成物)です。
原告は、有効成分をルビプロストンとする医薬品である原告製品24μg(販売名:アミティーザカプセル24μg)及び同12μg(販売名:アミティーザカプセル12μg)を製造・販売しています。
特許権の期間延長に関しては、本件24μg処分に基づき、特許①については6月6日の期間延長(令和6年7月2日まで)が認められ(本件延長登録1-1)、特許②については3年2日の期間延長(令和7年4月28日まで)が認められ(本件延長登録2-2)、本件12μg処分に基づき、特許①については5年の期間延長(令和10年12月26日まで)が認められ(本件延長登録1-2)、特許②については5年の期間延長(令和9年4月26日まで)が認められています(本件延長登録2-2)。用途は、いずれも「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」です。
被告は、令和5年2月24日、厚生労働省に対し、原告製品24μgの後発医薬品として、被告製品についての製造販売承認申請をし、令和7年8月には製造販売承認がされませんでしたが、令和8年2月に製造販売承認がされた場合は、同年6月の薬価基準収載が見込まれます。令和8年2月時点において、特許①については延長後を含め、特許期間は満了しております。特許②については有効に存続しております。
[2]裁判所の判断
裁判所は、争点2に係る、本件延長登録1-2により存続期間が延長された本件特許権1の効力は被告製品の生産・譲渡等に及ぶかという争点について、下記のように及ばないと判断しました。
(1)問題の所在
・・・分量を24μgとする被告製品が、本件12μg処分の対象となった物である原告製品12μgと同一であるとして特許権の効力が及ぶといえるかをめぐる争点である。しかも、本件では、これらの分量の差異をどう評価するかの問題のみならず、本件24μg処分を理由とする本件延長登録1-1の延長期間は既に終了している中で、これと分量を同じくする被告製品に対し、本件12μg処分という別の理由で延長登録された本件特許権1の効力が及ぶのかという問題もあわせ検討する必要がある。
(2)延長登録の範囲・単位
医薬品の製造販売について、当該特許の技術的範囲に属する複数の医薬品があり、それぞれに政令処分がされる場合において、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、後行処分の対象となった医薬品の製造販売をも包含すると認められるときには、特許発明の実施に政令処分(後行処分)を受けることが必要であったとは認められないこととなるから、後行処分を理由とする別個の延長登録は認められないものといえる。そして、両処分の包含関係を決するにあたっては、薬機法に基づく医薬品の製造販売承認における審査事項のうち医薬品としての実質的同一性に直接関わる事項である医薬品の成分、分量、用法、用量、効能及び効果について、両処分を比較して判断すべきと解される(ベバシズマブ最高裁判決参照)。
これを延長登録の範囲・単位として表現し直せば、成分、分量、用法、用量、効能及び効果を異にする医薬品は、薬機法に基づく製造販売承認の審査においてのみならず、特許権の延長登録出願上も別の物として扱われ、延長登録の可否及び延長期間が、それぞれ個別に審査、査定されることになるものといえる。
・・・存続期間を延長された当該特許権の効力としては、有効成分と効能及び効果を同じくする医薬品であれば、例えば、分量を異にしても「物」(現行特許法68条の2)として同一であり、広く効力範囲に含まれると解するのが整合的ということになる。言い換えれば、そのように特許権の効力範囲を広く解さなければ、上記のように延長登録出願に係る範囲・単位を広く扱い、有効成分と効能及び効果を同じくする限り、別途の延長登録を認めないとする解釈運用を正当化することは困難であったと考えられる。
他方で、ベバシズマブ最高裁判決によって定立されたというべき前記のような延長登録の範囲・単位は、薬機法に基づく医薬品の製造販売承認の審査と全く同一までではないものの、実質においてはこれと近似したものとなり、成分、分量、用法、用量、効能及び効果をもって、物としての特定要素とし、これを異にする医薬品については、それぞれごとに、特許権の存続期間延長の可否及びその期間の長短を審査、査定することとなる。これは、延長登録の範囲・単位について、薬機法に基づく製造販売承認に概ね近似する単位とし、従前の特許庁実務に比べると相当にいわば短冊化したものといえ、存続期間延長登録制度のもとでの特許権者と第三者との衡平を、よりきめ細やかに行うことを可能にするものと捉えることができる。
そして、このような存続期間延長登録制度の短冊化に照らして考えると、延長された特許権の効力範囲についても、このような短冊化された範囲内にとどまると解するのが整合的とはなる。すなわち、延長登録出願の段階において、存続期間延長の可否や期間の長短を、上記のように相当に狭い範囲・単位に区分けして扱うとしながら、仮に延長された特許権の効力が、この区分けされた範囲をいわば越境して及ぶこととなれば、延長登録出願段階で上記のように範囲・単位を区分けし、特許権者と第三者との衡平を、その範囲・単位できめ細やかに調整することを可能とする上記法的枠組みの意義が大きく損なわれることになるものといえる。
(3)特許法68条の2の文言からの考察
延長された特許権の効力範囲は、あくまで特許法68条の2の規定するところであり、同条は、特許法67条4項の規定により存続期間が延長された特許権の効力について、「その延長登録の理由となった特許法67条4項の政令で定める処分の対象となった物」の実施に対してのみ及ぶとするものである。
そこで、この「物」の意義が問題となるが、延長登録出願の段階において、延長の理由とされた政令処分上で定められた成分、分量、用法、用量、効能及び効果をもって、医薬品たる物としての特定要素とし、これを異にする医薬品については、別に存続期間の延長登録をすることができることに照らせば、特許法68条の2の規定における「物」も、政令処分上で定められた成分、分量、用法、用量、効能及び効果をもって特定されると解される。そうすると、存続期間が延長された特許権に基づく権利行使の対象製品について、延長登録の理由となった政令処分の対象とする物との比較として、これら特定要素の一部でも異なる部分が存在する場合には、当該特許権の効力が及ばないとするのが条文文言に照らしての形式的な帰結とはなる。しかしながら、このような解釈は、あまりに形式的にすぎ、第三者において、延長された特許権の効力範囲を容易に回避することが可能となり、延長登録制度の趣旨を没却することにもなるため、特許権者と第三者との衡平の観点から、延長登録の理由となった政令処分の対象となった物と、権利行使の対象製品との間に、上記特定要素につき何らかの異なる部分があったとしても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、権利行使の対象製品は、延長登録の理由となった政令処分の対象となった物と実質同一として、延長された特許権の効力が及ぶと解することが相当であるし、これをもって、第三者の予見性を損なうものでもないといえる。
そして、医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきと解される(オキサリプラチン知財高裁判決参照)。
(4)総合的考察
延長登録出願の段階における延長登録の範囲・単位は、成分、分量、用法、用量、効能及び効果を特定要素とするものであるのに対し、存続期間を延長された特許権の効力は、その範囲を画する「物」の特定要素を上記と同じくするものではありながらも、その形式的な適用が第三者による回避を過度に容易とし、特許権者の権利行使を困難とし、ひいては延長登録制度の趣旨である両者間の衡平を失することになるとの観点から、物として実質同一といえる範囲にまで広げて解するものである。このように、延長登録出願の段階での延長登録の範囲・単位と、存続期間が延長された特許権の効力範囲は、規範やその背景事情を異にするもので、両者の範囲は必ずしも一致するものではなく、むしろ、一般的にいえば、後者の方が広がりをもった範囲を有するといえる。
しかしながら、延長登録の範囲・単位とその結果存続期間が延長された特許権の効力範囲は、存続期間の延長登録制度全体の中で、整合的に解釈運用され、相互に調和することで、初めて特許権者と第三者との衡平という同制度の目的の実を果たすことができるというべきであるところ、特許権の効力範囲については、実質同一といえる範囲で広がりを有するとはいえ、その広がりは、存続期間の延長登録の範囲・単位と抵触しないという制約の中で解釈されるべきものといえる。すなわち、医薬品に係る同一の特許権について、複数の政令処分を理由とする延長登録がされている場合、後れて延長登録された特許権の効力範囲は、一定の広がりを有するものではあるものの、少なくとも、先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物は、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまでは効力が及ばないものとして解されるべきである(さらにいえば、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物を基準としたときに、①先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物との数量的差異よりも、数量的差異が大きい物〔例えば、分量の違いがより大きい物〕や、②先行する政令処分の対象とする物と同じだけの数量的差異に加えて別の質的な差異も存在する物〔例えば、同じだけの分量の差異に加えて成分にも一定の差異がある物〕は、物としての遠近がより離れることになるため、やはり実質同一といえないと解するのが、一貫した解釈として相当である。)。
仮に、後れて延長登録された特許権の効力が、先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物の生産・譲渡等にまで及ぶとすれば、先行する存続期間の延長の方が短かった場合において、その対象とする物の第三者による実施が、存続期間延長制度が規律する以上の期間にわたって禁じられることになる。このような帰結は、延長登録出願段階での範囲・単位を成分、分量、用法、用量、効能及び効果で短冊的に区分けし、特許権者と第三者との衡平を、その範囲・単位できめ細やかに調整しようとする存続期間延長制度の趣旨を大きく損なうものであるとともに、既に延長期間が終了した延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物に対して特許権の行使を受けるということは、第三者の予期を期待できるものではなく、特許権の効力を及ぼす実質的正当性に欠けるものともいえる。
(5)本件へのあてはめ
原告及び補助参加人は、本件12μg処分を理由とする本件延長登録1-2によって延長された本件特許権1の効力が、分量を24μgとする被告製品の生産・譲渡等にも及ぶ旨主張するところ、・・・本件12μg処分の対象となった原告製品12μgと被告製品は、分量こそ12μgと24μgという違いがあるものの、成分、用法、用量、効能及び効果は同一である上、本件各発明1の内容に照らせば、上記分量の差異が技術的特徴や作用効果に違いをもたらすとはいい難いと考えられるところ、上記差異そのものの評価としては、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異と見る余地があることは否定できない。
しかしながら、被告製品は、まさに先行する本件延長登録1-1の理由とされた本件24μg処分の対象となった原告製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果が同一の物であるところ、上記延長登録に係る延長期間は既に終了したものである。後行する本件延長登録1-2によって存続期間を延長された本件特許権1の効力は、その延長登録の理由となった本件12μg処分の対象である原告製品12μgと分量のみを異にする医薬品を実質同一の範囲に含むものとして一定の広がりを有するとまではいえるものの、原告製品24μgとの同一性に係る上記一事をもって、少なくとも、被告製品は原告製品12μgと実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまで効力は及ばないというべきである(被告製品と原告製品24μgとの間で、仮に添加剤の違いがあり、これをもって「成分」に一定の差異があると評価されるのであれば、実質同一をより否定する要素といえる。)。
なお、この点で、仮に原告及び補助参加人の主張を認めた場合、次のような帰結となるもので、実質的な妥当性・衡平を欠くことが具体的にも浮かび上がるものといえる。すなわち、本件特許権1は、出願日を平成15年12月26日とし、元々の存続期間は令和5年12月26日までであったが、特許登録日である平成23年12月22日から6月6日の間、薬機法に基づく製造販売承認を受けるまでの期間として、原告製品24μgについての実施をすることができなかったため、その期間の限り(令和6年7月2日まで)において、延長登録が認められた。しかし、原告の主張によれば、本件延長登録1-2によって存続期間が延長された本件特許権1の効力として、さらに令和10年12月26日までの間、被告製品その他原告製品24μgと成分、分量、用法、用量、効能及び効果を同じくする物の第三者による生産・譲渡等を差し止めることができることになる。これは、本来、政令処分を受けるまでの失われた期間に限り、存続期間の延長を許容する存続期間延長制度の趣旨、想定とは異なり、失われた期間の回復を超えて、延長登録の理由となった政令処分の対象とする物についての実施権の専有を認めるに等しく、実質において、特許権者と第三者との衡平を損なう結果を招くものといえる。
[3]コメント
(1)医薬品特許の延長可否に関して、製造販売のための承認が既に得られ、その先行処分により関係する特許権の実施が可能となった後、別の承認が得られた場合、その後行処分に基づいて当該特許権の存続期間の延長が認められるか否かの基準は、以前は、両者の製造承認に係る医薬品の有効成分と用途(効能効果)における同一性から決せられていました。何れかが異なれば、当該後行処分に基づいて特許権の存続期間の新たな延長が認められ(多くは効能追加の場合。即ち用途違い)、異ならなければ認められませんでした。そして、特許法68条の2に規定される存続期間延長後の特許権の効力においても、「処分の対象となった物」と同一か否かは、有効成分及び効能効果の同一性で判断され、剤型、用法、用量、製法等が異なっても、有効成分及び効能効果が同一であれば、当該特許発明の実施は既に解禁されていたとして、当該「処分の対象となった物」と同一と判断されていました。現在でも、特許法の逐条解説(第22版)の「特許法68条の2」の項目ではそのような趣旨のことが記載されています。
その後、本件判決でも引用されているベバシズマブ最高裁判決を受けて、特許庁は運用を変更し、「有効成分」及び「効能効果」といった2つの切り口からの同一性判断を止め、当該最高裁判決で示され、本件判決でも述べられている「成分(有効成分に限らない)、分量、用法、用量、効能及び効果」における同一性に基づいて特許権の延長の可否を判断するようになりました。即ち、それらの何れか一つでも過去に受けた医薬品の製造承認と異なる医薬品の製造承認であれば、当該処分に基づいて特許権の存続期間の新たな延長が認められるようになりました。そのため、過去に製造承認を受けた医薬品と、分量が多少違っても、有効成分以外の賦形剤等が多少違っても、その後行処分に係る製造承認に基づいて特許権の存続期間の新たな延長が認められるようになりました。そのため、本件判決でも述べられているように、短冊的な存続期間の延長が沢山認められる状況になりました。
そのような状況において問題となるのは、存続期間延長後の特許権の効力についてであり、これについては本件判決でも引用されているオキサリプラチン知財高裁判決において、特許法68条の2に規定される「処分の対象となった物」とは、上記延長の可否の運用と同様に、「成分(有効成分に限らない)、分量、用法、用量、効能及び効果」における同一性に基づいて判断されるとされました。但し、そのような杓子定規的な基準では、先発医薬品と殆ど変わらない後発医薬品まで特許権の延長後の効力が及ばないことになりかねず、不合理さが拭えないことから、先発医薬品との相違部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎない後発医薬品については、「均等物」や「実質的に同一と評価される物」として特許権の延長後の効力が及び得るということも、オキサリプラチン知財高裁判決では併せて判示されました(但し、傍論)。
(2)本事件では、先発医薬品と正に有効成分の分量のみ相違する後発医薬品が先発医薬品に係る特許権の存続期間の延長後の効力が及ぶか否かが問題となりました。具体的には、有効成分が12μgの先発医薬品に係る製造承認に基づく延長後の特許権の効力が、24μgの後発医薬品に及ぶか否かです。但し、少し特殊なところは、当該後発医薬品と同じ有効成分が24μgの先発医薬品が先にあり、それに基づいて延長された特許権の存続期間は、既に満了していることにあります。当該後発医薬品は、既に特許権が消滅した先発医薬品の態様と同じものというとことになります。
そのような24μgの後発医薬品に対して、裁判所は、12μgの先発医薬品に係る製造承認に基づく延長後の特許権の効力は及ばないと判断しました。その主な理由としては、本事件に係る12μgと24μgとは、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異と見る余地があることは否定できないとしながらも、「特許権の効力範囲については、実質同一といえる範囲で広がりを有するとはいえ、その広がりは、存続期間の延長登録の範囲・単位と抵触しないという制約の中で解釈されるべき」こと、即ち「医薬品に係る同一の特許権について、複数の政令処分を理由とする延長登録がされている場合、後れて延長登録された特許権の効力範囲は、一定の広がりを有するものではあるものの、少なくとも、先行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物は、後行する延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と実質同一ではなく、その生産・譲渡等にまでは効力が及ばないものとして解されるべき」こと、「既に延長期間が終了した延長登録の理由となった政令処分の対象とする物と成分、分量、用法、用量、効能及び効果として同一の物に対して特許権の行使を受けるということは、第三者の予期を期待できるものではなく、特許権の効力を及ぼす実質的正当性に欠ける」こと、「政令処分を受けるまでの失われた期間に限り、存続期間の延長を許容する存続期間延長制度の趣旨、想定とは異なり、失われた期間の回復を超えて、延長登録の理由となった政令処分の対象とする物についての実施権の専有を認めるに等しく、実質において、特許権者と第三者との衡平を損なう結果を招く」ことなどを挙げました。
上記判断は個人的には首肯します。先に製造承認を受けた24μgの先発医薬品に基づく特許権の存続期間の延長がなく、12μgの先発医薬品に基づく特許権の存続期間の延長のみであれば、当該特許権の延長後の効力は、24μgの当該後発医薬品に及ぶと判断された可能性は高いとは思います。しかし、24μgに基づく特許権の存続期間の延長が先にあり、その延長期間も満了した後、それと同じ24μgの当該後発医薬品に及ぶとするのは公平性に欠けるように思われ、予測可能性も損なわれうると思われ、また医薬品(再生医療等を含む)と農薬にのみ(特別に)認められているという、言わば例外的な特許権の存続期間の延長制度からして行き過ぎの感もあります(但し、新たな医薬品創出のインセンティブ等の観点からそれもありの可能性もあるが)。
(3)日本の特許権の延長制度に関しましては、まだまだ予断を許さないところがあるように思われ、判決の積み重ねがなお必要ではないかと思います。当該延長制度を一から見直しても良い時期が来ているのかもしれません。先発品メーカーと後発品メーカーとの調整は勿論必要であり、決して簡単なものではないとは思いますが、そうしないとまだまだこの手の紛争は続くかもしれません。
欧米における特許権の延長制度と同じにする必要はないとは思いますが、特許権の延長制度を有する国(基本的にいわゆる先進国)は少ないながら、欧米に近い制度の国の方が多いように思います。日本のような延長制度の国はまずないと思います。例えば、欧米のような1特許・1延長(但し、効力は比較的広く、用途違いにも及ぶ)を軸に制度設計を図っても良いのではないかとも思われます。
以上、ご参考になれば幸いです。