2021/8/5

商標法3条1項6号に関する事件

令和2年(2020年)6月17日知財高裁2部判決
令和元年(行ケ)第10164号 審決取消請求事件

原告:クルーズカンパニー

被告:特許庁長官

 本件は、商標「I❤/JAPAN」(第14類:キーホルダー、など)とする商標出願について、裁判所(知財高裁)は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標(自他商品識別力がない商標)として商標法3条1項6号に該当するとして原告の請求を棄却し、特許庁の審決(不服2018-16957)を支持した事件に関するものです。商標法3条1項6号に関する審決取消訴訟は珍しいように思いましたので、取り上げてみました。

最高裁HP:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/529/089529_hanrei.pdf

[1]本事件の概要
(1-1)本件商標

 本願(商願2018-49161)は、商品区分第14類、第16類、第18類、及び第24類に属する商品を指定商品とする、下記のような商標見本に関する商標出願です。

(1-2)争点
 商標法3条1項6号の該当性

[2]裁判所の判断
 裁判所は、下記のように判示し、本願商標は、商標法3条1項6号に該当し登録を受けることができないとした特許庁の審決を支持しました。

(1) 本願商標の構成について

 ア 本願商標は,Iハート図形とその下に「JAPAN」の欧文字を書してなるものであり,別紙1に記載の商品を指定商品とするものであるところ,本願商標の構成のうち,Iハート図形が全体として,「私は~が大好きです。」との意味合いを表す英語の「ILOVE~」を端的に表意するものであること,Iハート図形とその横に又は下に何らかの文字を結合した表示が,何らかの文字が表すものに対して愛着の気持ち等を表すものとして理解されることは当事者間に争いがない。
 そうすると,Iハート図形の横又は下に「地名」を結合した表示は,当該地名(国名や都市名等)が表す場所に対する愛着の気持ち等を表すものとして理解されると認められる。
 イ(ア) 本件審決前に,日本において,インターネットのウェブサイトのIハート図形が使用されている表示が30件存したものと認められる。
 また,証拠によると,本件審決前に,「オスミツキ商店街」のウェブサイトにおいて,商品「ステッカー」の表面に「I」及び「❤」とその下に「TOYA」の文字を表示した画像(以下,「TOYA表示」という。)とともに,「オスミツキ商店街は,支笏洞爺国立公園内・洞爺湖温泉街にある雑貨屋,HORIDAYMARKETTOYAの公式オンラインショップです。」,「ILOVETOYASTICKER」,「ぜひいろんな場所にバシバシ貼って,洞爺好きをアピールしてください!」との記載があったことが認められる。
  (イ) 上記(ア)の各表示のうちIハート図形の横又は下に「地名」を結合した表示は,結合した当該地名が表す場所に対する愛着の気持ち等を表す表示として,又は,当該地名が表す場所の土産物などとして客の関心をひくための表示として,被服を取り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって使用されているものと認められる。
 また,Iハート図形の横又は下に「日本」を意味する英語である「JAPAN」の欧文字を結合した表示は,日本又はスポーツの日本代表チームなど日本に属するものに対する応援の気持ちを表す表示として,被服を取り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって,使用されていることがあると認められる。
  (ウ) 証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
   a Iハート図形の下に「NY」を結合した表示は,1970年代後半から,ニューヨークの観光キャンペーンに用いるために「アイラブニューヨーク」というスローガンと共に使用され,Iハート図形の下に「NY」を結合した表示が付されたマグカップ,Tシャツなどのライセンス商品が販売されている。それらのライセンス契約による収入は年30億円にのぼるといわれている。
   b Iハート図形の下に「JAPAN」を結合した表示が付されたTシャツや,Iハート図形の下に栃木を表す「TG」を結合した表示が付されたTシャツは,Iハート図形の下に「NY」を結合した表示を意識して作られた商品である。
  (エ) なお,被告の提出する証拠のうち,乙1,22~28,37~41,43は,いずれも本件審決後に作成された書証であり,本件審決前にこれらの書証の表示が存在していたと認めるに足りる証拠はないから,これらの証拠を認定に用いることはできない。また,乙2,3は,書証上,作成日が明らかでなく,本件審決前の事情を示す表示であると認めることはできないから,これらを認定に用いることはできない。
(2) 本願商標の商標法3条1項6号該当性について
 前記(1)によると,本願商標は,「私は,日本が大好きです。」の意味合いとして容易に理解されるものであり,日本においては,Iハート図形の横又は下に「地名」を結合した表示は,結合した当該地名が表す場所に対する愛着の気持ち等を表す表示又は当該地名が表す場所の土産物などとして客の関心をひくための表示として,また,Iハート図形の横又は下に「JAPAN」を結合した表示は,日本又はスポーツの日本代表チームなど日本に属するものに対する応援の気持ちを表す表示として,被服を取り扱う事業者やステッカーを取り扱う事業者等の事業者によって使用されていることが認められるから,本願商標をその指定商品に使用した場合,本願商標に接する取引者,需要者は,これを,日本に対する愛着の気持ちや日本に属するものに対する応援の気持ちを表現したものあるいは日本の土産物を示すものと認識するにすぎないと認められる。そうすると,本願商標は,自他商品の識別力を有さないというほかない。
 したがって,本願商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるから,商標法3条1項6号に該当することになる。
(中略)
 エ 原告は,本願商標と同種の商標が商標登録されていることから,本願商標には自他商品識別力があると主張する。
 証拠によると,①指定商品を第25類(被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴)とし,本願商標と同じ構成を有する商標が,原告を商標権者として,平成27年3月27日に商標登録されていること,②指定役務を第30類(菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドックなど)とし,本願商標と同じ構成を有する商標が,原告を商標権者として,平成30年6月15日に商標登録されていること,③指定役務を第35類(広告業,トレーディングスタンプの発行,経営の診断又は経営に関する助言など)とし,Iハート図形の下に「TOKYO」と記載した商標が,米国の企業を商標権者として,令和元年7月5日に商標登録されていることが認められる。
 しかし,本願商標に自他商品識別力が認められないことは既に判示したとおりであるところ,商標法3条1項6号該当性の判断は,個別具体的に検討,判断されるものであるから,上記①~③の商標登録がされているからといって,本願商標に自他商品識別力があると認めることはできない。

[3]コメント

①久しぶりにブログをアップいたしました。商標法3条1項6号に基づく拒絶査定不服審判の棄却審決に対する審決取消訴訟の事件で、商標法3条1項6号の該当性を扱った判決は珍しいと思いましたので、取り上げてみました。

 本願商標は、「I❤」を上段に、「JAPAN」を下段に配したものですが、「I❤」と地名が結合した表示は沢山使われており、本願商標に接する取引者・需要者は、本願商標を、日本に対する愛着の気持ちや日本に属するものに対する応援の気持ちを表現したものあるいは日本の土産物を示すものと認識するにすぎないから、自他商品の識別力を有さない旨、裁判所は判断しました。

②商標法3条1項6号は、普通に用いられる方法で表示する普通名称や慣用商標でも、記述的商標でも、ありふれた氏又は名称でも、極めて簡単かつありふれた標章でもないが、需要者が何人かの業務に係る商品等であることを認識できない場合に適用される規定です。商標法3条は、そもそも自他商品等の識別力ないし独占適用性を有しない出願商標を阻却するものですが、上記した普通名称や記述的商標等とも言えない場合に適用される、自他商品等識別力を有しないその他のマークを排斥するためのいわば包括的一般的な規定です。それゆえ、例外的に適用される規定とも考えられ、安易な適用は好ましくないと思われます。

 本規定について、商標法3条2項の対象ではないことが一見どうしてと思われるかもしれません。そもそも商標法3条1項6号に該当するならば、使用による周知性の獲得はなく、逆に言えば、使用により周知性を獲得すれば、商標法3条1項6号該当商標ではないということになります。

③本願商標は、「I❤」が多数で使用された結果、事後的に商標法3条1項6号に該当する商標に至ったものと思います。自他商品等の識別力ないし独占適用性を有しない商標は、元よりそういうものであり、事後的に至ることは少ないようにも思われますが、事後的に発生した元号なども商標法3条1項6号に該当しうると言われていますから、そうとも言い切れません。

 原告は、第25類の指定商品について、本願商標と同じ構成を有する商標の登録を受けており(登録5752985号)、その本来の登録性も微妙ですが、3年ほどの出願日の差があるため、判断の違いは一応説明がつくと思われます。

 一度、商標法3条1項6号の商標であると認定された商標が、将来的に(例えば、使用努力の結果)、自他商品等の識別力ないし独占適用性を有する商標に変身し、登録が認められるようになる可能性はあるのでしょうか。現実的には難しいように思います。そうであれば、当該規定に該当するか否かの判断はより慎重であるべきと思います。

④本願商標は、商標法3条1項6号に該当すると判断されました。それが確定しますと、原告の上記登録商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標になりますから、どのように使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用することができず、商標権の効力が及ばない可能性があります(商標法26条)。そうすると当該商標権を保有する意義が薄れるかもしれません。尤も、当該指定商品との関係では自他商品識別力を有している場合や、使用努力の結果、自他商品識別力を有する商標に変身すれば別ですが。

 なお、少し調べると、「I❤」と「TOKYO」を同様に組み合わせた結合商標も登録されていましたが、本願商標と同様の問題があるように思われます。事後的に、あるいは不可抗力的に商標権の効力が滅失してしまうことはあり得ることですが、明らかな過誤登録でもない限り、何らかの救済があっても良いのではないかと思います。

⑤最後に、被告特許庁は、審決後に作成された書証を本件裁判に提出しましたが、本件審決前に当該書証の表示が存在していたと認められないとして、証拠として認定されていません。審決後に作成された書証であっても裁判に提出することができないわけではありませんが、今回証拠として認定されなかった書証は、ウェブサイトの記事のようであり、証拠として提出するならば、そのサイトと当該表示が審決前にも存在したことを示す必要があります。この点、実務的には注意を要するところと思われます。

以上、ご参考になれば幸いです。